師匠シリーズ 【師匠シリーズ】044 冬が来る前に 「なんの用なの。1人で来るなんて、珍しいわね」「まあ、ちょっと」 僕は、喫茶店の窓際の席で看護婦の野村さんと向かい合っていた。彼女は大学病院で看護婦長をしていて、師匠とは古くからの知人だった。その縁で僕も何度か会ったことがあった。もちろん、1人で会うのははじめてだ。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】043 星型要塞都市 角南家での老人との会合から2日が経っていた。 その日、僕はバイトで小川調査事務所にやってきた。特に調査の依頼は入っていない。ただの資料整理だ。情報が命の興信所は、最近の様々な事件を常に整理している。タカヤ総合リサーチなどは、その辺がかなりシステマティックに整備されている。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】042 老人 目の前に、深い皺の刻まれた老人がいる。彫りの深い顔は、まるで往年の映画俳優のようだ。ただ映画を撮るには、少し痩せすぎているように見えた。 年季の入った黒檀の机のうえに、和服のそでからのびた細い腕が置かれている。その腕が、大きな灰皿を引き寄せて、もう片方の腕がタバコの灰を落とす。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】041 地下 巨人を見た次の日、僕らはJRに乗って、となりの町へやってきた。 うちの大学の日本史研究室の元教授で、退官した今では、郷土史家という肩書きでのんびりと好きな研究を続けている、宮内氏を訪ねてきたのだ。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】040 アポカリプティック・サウンド 福武さんという、師匠の知り合いが描いた不気味な絵をめぐって、人の群にもみくちゃになり、散々な目にあってから僕らは師匠の家で落ち合った。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】039 狂心の渠 劇団くじら座の公演を見た2日後だった。 よく晴れた日で、見上げれば秋らしい高い空が広がっていた。僕は、久しぶりに洗濯をして干してくればよかったと思いながら、自転車をこいでいた。後輪の上には師匠が立ち乗りをしている。両手は僕の肩だ。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】038 くじら座 師匠に、劇団を見に行こうと誘われた。 弓使いが部屋を訪ねてきて、一晩を一緒に過ごしたことを師匠に言い出せず、もんもんとしていたころだったので、正直気まずかったが、ついていくことにした。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】049 魔よけ 大学2回生の春だった。 そのころ僕は、小川調査事務所という興信所でバイトをしていた。普通の興信所の仕事ではない。その業界で、『オバケ』と呼ばれる不可解な依頼を専門に受けている師匠の、お手伝いのようなものだ。 2025.02.19 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】037 窮鳥懐に 大学2回生の秋だった。 去年にも増して、身の回りに様々な事件が起きた夏がようやく過ぎ去り、肌寒さを感じるようになったころ。キャンパスの妖精という変なあだ名で呼ばれていた師匠と出会ってから、これまでに体験してきた、おかしな出来事の数々を思い返すと、奇妙ではあったけれどそれらは個々の事象だった。だが、この春から夏にかけて発生した事件は、どこか繋がりを感じさせるものばかりだった。 2025.02.18 師匠シリーズ
師匠シリーズ 【師匠シリーズ】036 握手 後編 真夜中の教育学部の学部棟の屋上で『妖精』と出会った、その次の日だ。僕は昼間にその学部棟の下に立って、空を見上げていた。昨日の夜、あの空中に、この世のものではないものが浮かんでいたのだ。人の体のツギハギでできたような不気味ななにかが、大きくなったり、小さくなったりしながら、あそこに。 2025.02.18 師匠シリーズ